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劇団四季の取締役として「キャッツ」「オペラ座の怪人」「マンマ・ミーア!」などの日本公演の企画・交渉を受け持っきた音楽評論家・安倍寧さんとニューヨーク·シティ·バレエ団初の東洋人プリンシパルとなり、『キャッツ』ではミストフェリーズ役でニューヨーク、ロンドン、東京の3都市に出演した世界で唯一のダンサー堀内元さんのミュージカル&ダンス界のレジェンド極上対談が実現!


――まず、映画『キャッツ』をご覧になった感想を聞かせてください。

堀内「最初は、1998年に製作された舞台版のビデオをイメージしていたんです。そうしたら、演出も振付もまったく新しくなっていたので驚きました。舞台のリメイクではなく、新しい『キャッツ』に生まれ変わった印象です」

安倍「トム・フーパー監督の『舞台版とは違うものを表現する』という強い意志が感じられましたね。リー・ホールとともに彼が手がけた脚本に感心しました。もともと小さな役だったヴィクトリアを主人公に配置し、『ジェリクルキャッツ』の世界に迷い込んだ設定にしたのが新鮮でした」

堀内「舞台版のオープニングは猫たちが客席から登場し、休憩時間も客席で遊んだりします。つまり猫が、観客=人間に向かって物語を伝える形式です。しかしこの映画版では、猫たちが新参者のヴィクトリアに向けてパフォーマンスしています。それをスクリーンを通して観客が見つめるわけです。これは最近のダンスの潮流ともよく似ています。かつては客席にアピールしていた表現が、ダンサー同士の相互作用を重視する傾向になってきており、そんな現代的感覚も取り入れたのではないでしょうか」

安倍「現代的といえば、物語の変更も時代が意識されています。ヴィクトリアの存在は、猫の社会では『他者』です。異質な存在を、固定観念のある社会がどう受け入れるのかを、この映画版は描いていました。自身も他者であると意識するヴィクトリアは、猫たちから距離をとろうとするのですが、その長であるオールドデュトロノミーは温かく迎え入れ、輪に加わる事を促します。そしてアウトサイダーのヴィクトリアが、その中でのけ者扱いされていたグリザベラと心を通わせます。この流れはまさに、現代の世界が抱える問題と重なり目頭が熱くなりました」

 

――堀内さんが演じたミストフェリーズの役どころも、映画版では変更が加えられています。

堀内「たしかにそのとおりですが、ミストフェリーズは舞台版でも変化をとげてきたキャラクターなので、違和感はなかったですね。僕がロンドン版で演じたときは、ジェニエニドッツのパートで、列の先頭でタップを踏みました。ブロードウェイの初演では、マンゴジェリーとランペルティーザのパートで、彼らを紹介する歌を歌っています。このようにミストフェリーズの役どころはつねに流動的なので、今回も改変されたのでしょう」

 

――映画版で注目されるのは、新たな曲『ビューティフル・ゴースト』です。

安倍「予想した以上の名曲でした。アンドリュー・ロイド=ウェバーは、作ったメロディをストックしておく作曲家なので、この曲も、もしかしたらその『引き出し』から仕上げたのかもしれません」

堀内「あの『メモリー』も、『キャッツ』のために書かれたわけではないのに、うまく当てはめましたからね」

安倍「いずれにしても、非常に聴きやすいメロディでありながら、安易なスタイルに迎合していない。作曲家としてのプライドを感じさせる名曲です。『メモリー』が東の横綱なら、『ビューティフル・ゴースト』は西の横綱という印象。この新曲によって、新たな観客層を広げてほしいと強く感じました」

 

――振付や映像全体からは、どのような印象を持ちましたか?

堀内「舞台版にもコンテンポラリー・ダンスの要素やタップが入っていたように、『キャッツ』は多様なダンスで魅せる作品です。この映画版はヒップホップを加えたりして、さらに広がりを感じました」

安倍「群舞の見せ方がすばらしかったですね。俯瞰で撮ったダンスのアンサンブルなどは、じっくり堪能できるでしょう」

堀内「バレエ的な動きがよくわかる映像になっていました。あとは尻尾が自由に動くのが楽しかったです。舞台では、自分の手を使って尻尾を動かすしかなかったですから」

安倍「その意味で、どこまで人間で、どこまで猫の外見にするかは、とても難しい選択だったと思います。最初に『キャッツ』が映画化されようとしたとき、アニメーションになる可能性がありましたが、アニメの猫が歌って踊っても作品の魅力は伝わらない。かといって、『ライオン・キング』のようにリアルな猫も、ちょっと違う。俳優の顔がはっきりとわかり、肉体が猫らしいという今回のビジュアルは、『キャッツ』の映画化として現時点でのベストではないでしょうか」

 

――映画版のキャストはいかがでしたか?

安倍「ジュディ・デンチやイアン・マッケランのように、ロンドンのウエストエンドで、シェイクスピア作品などで鍛え抜かれた名優から、新人までが抜擢され、多様なバックグラウンドの人たちがひとつの作品に集まった。その面白さがありましたね。ジェニファー・ハドソンの『メモリー』にも聴き惚れました」

堀内「バレエの世界の後輩たちが、タップを踏んだり、歌を歌ったりする姿は、観ていて誇らしいです。とくにロイヤル・バレエ団のフランチェスカ・ヘイワードと、僕も所属していたニューヨーク・シティ・バレエ出身のロビー・フェアチャイルドは、最初から最後まで美しいバレエの動きを披露し、『キャッツ』が次の世代に受け継がれていることを実感しました」

 

――1981年に初演された『キャッツ』が、時代を超えて愛され続けている理由は何でしょう。

安倍「猫のキャラクターを描きながら、人間社会を表現しているからだと思います。その設定はもちろん、衣装や装置、振付などあらゆる要素が革新的だったからでしょう。そして何より、音楽のすばらしさが他のミュージカルに比べても抜きん出ています」

堀内「僕もそう思います。ひとつひとつのメロディが新鮮なのに覚えやすく、しかも歌いやすい。こうして映画になったことで、さらに後世に伝えやすくなり、映画を観てミュージカルスターを目指す子どもたちが増えてくれればいいですね」

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【PROFILE】

●安倍寧(あべやすし)
音楽評論家。1965年以降、ニューヨークのブロードウェイ、ロンドンのウエストエンドで上演されたほとんどすべてのミュージカル作品を鑑賞。劇団四季の取締役として「キャッツ」「オペラ座の怪人」「マンマ・ミーア!」などの日本公演の企画・交渉を受け持った。現在もエイベックスエンタテインメント株式会社の顧問などエンタテインメント業界に深く関わっている。

●堀内元(ほりうちげん)
バレエディレクター、振付家。1980年、ローザンヌ国際バレエコンクールでスカラシップ賞と振付賞を得て、16歳で単身アメリカに渡る。ニューヨーク·シティ·バレエ団に15年間在籍し、東洋人として初めてプリンシパルにまで昇りつめる。2000年、セントルイス·バレエ芸術監督に就任。『キャッツ』ではミストフェリーズ役でニューヨーク、ロンドン、東京の3都市に出演した世界で唯一のダンサーである。2010年より、日本においても自身の作品発表の場を設けており、今夏も上演される。2015年、芸術選奨文部科学大臣賞受賞。

※取材・文:斉藤 博昭